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今週の伊勢物語
一 しのぶのみだれ 
二 ながめくらしつ
三 むぐらの宿に
一 しのぶのみだれ
昔、男初冠して、平城の京春日の里に、しるよしして、狩にいにけり。
その里に、いとなまめいたる女はらからすみけり。
この男かいまみてけり。
おもほえずふるさとにいとはしたなくてありければ、心地まどひにけり。
男の着たりける狩衣の裾を切りて、歌を書きてやる。
その男、しのぶ摺の狩衣をなむ着たりける。 
春日野の若紫のすり衣しのぶのみだれかぎり知られず
となむおひつきていひやりける。
ついでおもしろきことともや思ひけむ。
みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑにみだれそめにし我ならなくに
という歌の心ばへなり。
昔人は、かくいちはやきみやびをなむしける。
二 ながめくらしつ
昔、男有りけり。
ならの京は離れ、この京は人の家まださだまらざりける時に、西の京に女ありけり。
その女、世人にはまされりけり。
その人、かたちよりは心なむまさりたりける。
ひとりのみもあらざりけらし。
それを、かのまめ男うち物語らいて、帰り来て、いかが思ひけむ、ときはやよひのついたち、雨そほふるにやりける、 
起きもせず寝もせで夜をあかしては春のものとてながめくらしつ
三 むぐらの宿に 
 昔、男ありけり。 懸想じける女のもとに、ひじき藻という物をやるとて、
思ひあらば葎の宿に寝もしなむひじきものには袖をしつつも
二条の后の、まだ帝にも仕うまつり給はで、ただ人にておはしましける時のことなり。
[] [↑↑] [] [] 11/Mar/2000 (c)1999, Masakazu Shin-ya<shintani@caramelpot.co.jp>